今から4年前,ピッツバーグから帰国されたばかりの先輩のI先生とオマハで開催された小腸移植の国際シンポジウムに参加しました.私にとってはじめての国際学会でとても勉強になったのですが,この学会の中でもっとも印象的だったのはマイアミの加藤先生のズーム内視鏡による拒絶反応のモニターに関するご発表でした.演題自体も興味深かったのはもちろんですが流暢な英語で堂々と発表されおり海外で活躍されているすごい先生がいるのだなあと感心したのを憶えております.

それから暫く私は母校の大学院で小腸移植の免疫に関する実験,研究をさせていただいたのですが,臨床の小腸移植は一度もみたことがなく勉強する機会はないかと考えていたところ,昨年の小腸移植研究会で加藤先生のご講演を再び拝聴することができたのです.その後メールなどで連絡をとらせていただき,まずはアトランタで開催された胆道閉鎖症のシンポジウムの後に1週間だけ病院と手術の見学させていただきました.残念ながらこの時は移植手術を見ることができなかったのですが,加藤先生にお仕事が終わった後などに食事に連れていっていただき臨床の移植のことを何も知らなかった私には大変勉強になるお話をたくさん聞かせていただきました.また偶然なのですが当科で胆道閉鎖症の手術を受けて関連施設でフォローされていたMちゃんがマイアミで肝移植を待機されていました.激励にと思って訪問したのですがその後Mちゃんのご家族には反対にすっかりお世話になってしまいました.たとえ1週間でもとてもよい経験になったのですがもっと臨床の移植を勉強しなくてはという思いは更に強くなり,また少し前に当科でフォローしていたHPNの患児を突然死で失ってしまった経験から何としても臨床小腸移植を実現させたいという気持ちもあり,今回の短期留学ということになったのです.
マイアミ大学はピッツバーグから移られたTzakis先生が1994 年から移植のプログラムを開始し,成人の移植もおこなわれていますが小児の移植が有名で年間25~30例の小児の移植が行われています.加藤先生は肝・消化管移植部門の助教授,小児移植のDirectorで小児の移植手術を数多く執刀されています.加藤先生を中心とする小児移植チームは毎朝ミーティングで治療方針などを検討したあとICUや移植のユニットなどを回診します.移植後の拒絶など大変な患者さんもいますが,特にマイアミが得意とする小さな子どもの多臓器移植も数年前までは成績もよくなく術後管理も大変だったそうですが最近ではほとんど死亡症例もないということですからその術後管理のノウハウについてはとても勉強になります.小腸を含む移植の術後には頻回に内視鏡検査をおこなうので一日に何件もあり数多く見学することができました.移植以外の手術も肝前性門亢症に対するシャント手術や肝腫瘍に対する肝切除など小児外科医にとって勉強になる症例がたくさんあります.HCCの肝3区域切除後の残肝再発に対し残った左葉外側区域を全摘しex vivoで腫瘍を切除してauto-transplantするというすごい手術もありました.移植手術で最も印象に残っているのは体重4kgの新生児ドナーから1歳体重8Kgの腹壁破裂から超短腸症,肝不全をきたしたレシピエントへの多臓器移植.この手術ではharvestの助手をさせていただきました.腸間膜デスモイド腫瘍に対する小腸のauto-transplantは2ヶ月の間に2例あって,うち1例は切除した自前の腸管は結局移植することができず脳死ドナーからの肝なしの多臓器移植になったのですが,この際なんと腹壁も同時に移植されていました.マイアミではこの腹壁移植をすでに数例に行っておりその成果はLancetに掲載されています.
2ヶ月という短い期間でしたがたいへん貴重な経験をさせていただきました.またこの留学の後に加藤先生のご協力のもと当科で国内7例目の生体小腸移植を実施できたことを大変うれしく思っております.
和田 基
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【学会賞助成金など】
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