概念
口から食べた物は胸の中にある食道を通ってお腹の中にある胃の中に入ります。胸とお腹を区切る横隔膜を食道が貫く所には食道裂孔という孔が開いています。胃の一部がこの食道裂孔を通って胸の方へ入り込んでいる状態を食道裂孔ヘルニアといいます。
病型
胃が胸に入り込んでいる形態により通常三つの型に分類されます。胃と食道のつなぎ目がそのまま胸の方へ入り込んでいる滑脱型、胃と食道のつなぎ目は正常の位置にあり、胃の一部が食道のわきを通って入り込んでいる傍食道型、両者が混じった混合型があります。最も多いのは滑脱型で、次いで混合型が多く、傍食道型は稀とされています。
病因
小児では、生まれつき食道裂孔ヘルニアが生じている場合もありますが、生まれた後で発症してくることもあります。特に脳性麻痺があるお子さんでは、成長に伴い脊椎の側弯(背骨が横に曲がること)や亀背(背骨が後方に曲がること)が進行すると食道裂孔が広がり、食道裂孔ヘルニアが発症しやすくなります。これは高齢者でも同様のことが起こります。
症状
病型により異なります。食道裂孔は胃食道逆流(胃食道逆流の項参照)を防止するために非常に重要な役割を果たしています。そのため胃の一部が食道裂孔を通って胸の中に入ってしまう滑脱型や混合型では胃食道逆流が起こりやすくなり、嘔吐や胸やけ等の症状がみられます。小さな滑脱型ヘルニアでは無症状のこともあります。傍食道型単独では、胃酸や胃内容物の逆流は起こらず、胃が食道を圧迫することで物を飲み込みにくくなったり、腹痛を生じることがあります。また胃粘膜からの出血や,血の巡りが悪くなったりすることがあります。
診断
上部消化管造影検査:バリウム等の造影剤を用いて食道と胃の形態・位置関係を観察する方法で、最も一般的に行われる検査法です。
上部内視鏡検査:内視鏡を用いて直接食道や胃の中を観察します。それにより食道裂孔ヘルニアの有無や病型を診断することが可能です。さらに、食道粘膜を直接観察することが可能なため胃酸の逆流による炎症(逆流性食道炎)の評価も可能です。
CT検査:上記検査法の補助的検査法としてや上記検査ができない時に行われます。
24時間食道pH検査:胃食道逆流の程度を見るために行われます。
治療
小さな滑脱型の食道裂孔ヘルニアで、特に症状がなければ経過観察も可能です。胃酸の逆流による逆流性食道炎に対しては、制酸剤による治療が有効です。しかし、制酸剤を使用しても前述した症状が改善しない場合は、手術が必要になることがあります。手術は全身麻酔が必要です。手術法としては、胸の中に入った胃をお腹の中に戻して、ゆるくなった食道裂孔を縫い縮めさらに通常は逆流を防ぐ噴門形成術を同時に行います。以前は開腹手術で行われていましたが、最近では多くの小児外科施設で、腹腔鏡による手術が行われています。