門脈圧亢進症とは
門脈は、栄養源を吸収する消化管とそれを代謝する肝臓を連絡する血管(腸
間膜静脈)と、脾臓の血液を肝臓に運ぶ血管(脾静脈)が合流した大きな静脈の通り道です。門脈圧亢進症とはこの門脈の血圧が亢進する(高くなる)病態です。つまり門脈圧亢進症というのは一つの病気ではなく、以下に示すさまざまな病気によって門脈圧が高くなってしまう状態ということです。
門脈圧亢進症を起こす病気
門脈圧が亢進する原因は主に門脈の血流が悪くなることによっておこります。門脈の流れが悪くなる原因が、肝臓に入る手前・肝臓自身・肝臓から出た後のどこにあるかで、肝前性・肝内性・肝後性に分類されます。
最も多い原因は肝前性の場合で、先天的な門脈の形成異常の場合もありますが、また生まれてすぐに、おへそに炎症がおきることや、おへそに入れたカテーテルが炎症をおこして、後天的に門脈が閉塞することもあります。
肝内性の原因で多いのは肝硬変です。小児で肝硬変をおこす代表的な病気が胆道閉鎖症です。肝硬変となると肝臓自体が固くなることによって、門脈の血流を十分に受け入れられなくなります。
肝後性は肝臓から心臓までの流れが悪くなって肝臓から出ていくべき門脈の血液が肝臓にたまることによっておこりますが、小児では比較的まれです。
症状
1.食道・胃静脈瘤
本来門脈を流れる血液は肝臓を通って心臓に帰りますが、門脈圧亢進症では門脈を迂回する血管(側副血行路と言います)を通して心臓に帰るようになります。側副血行路の代表的なものとして左胃静脈や食道静脈があり、門脈圧亢進症が進行するとこれらの静脈がこぶ状に膨れ上がって、静脈瘤という状態となります。静脈瘤が破裂すると大出血をきたし、致命的になる危険があります。
2.脾腫、脾機能亢進症
門脈圧が亢進すると、門脈に流れ込む脾静脈の血液もうっ滞し、脾臓が腫れて脾腫となります。その結果脾臓の機能が必要以上に亢進します。脾臓は古くなった血球を破壊する臓器ですので、脾機能が過剰に亢進すると必要以上に血球が破壊され、血小板減少や貧血がおこります。
3. その他に腹水がたまったりすることもあります。
治療
以上のように、門脈圧亢進症はさまざまな病気によっておこる病態ですので、根本的には門脈圧亢進症を引き起こす病気自体の治療が必要です。しかし、それが難しい場合は門脈圧亢進症によっておこる症状の対症療法を行うこととなります。つまり、胃食道静脈瘤の治療、脾機能亢進症の治療が主なものとなります。
1.食道・胃静脈瘤の治療
内視鏡を用いた治療が中心となります。拡張した血管を閉塞させる硬化療法や特殊なゴムを用いて静脈瘤を結紮する結紮術があります。
2.脾腫・脾機能亢進症の治療
脾臓をとってしまうと重症感染症の危険性があるため、脾動脈の一部を閉塞させて血流を少なくする部分的脾動脈塞栓術が行われます。
また肝前性の門脈圧亢進症の場合は、門脈圧自体を低下させる目的で手術が行われることがあります。以前は門脈系の血管(上腸間膜静脈や脾静脈)の血流を大静脈系(下大静脈や腎静脈)に流すシャント手術が多く行われてきましたが術後肝性脳症(腸管吸収したものが肝臓を直接通らないことによりアンモニアが溜まってしまうために起こる脳症)や肝肺症候群(肺の毛細血管が拡がってしまい、呼吸によってうまく酸素を取り込めないこと)などの合併症が問題となってきました。
最近では最も生理的なシャント方法としてRexシャント(図1、門脈の狭くなっている、もしくは閉塞している部分をバイパスするために、他の血管などを持ってきて肝内門脈に吻合する手術)が行われるようになってきています。
上記いずれの治療にあたっても専門施設での治療が必要です。
図1 Rexシャント