お腹への腸の収まり方(回転と固定)と腸回転異常症の発生
小腸の長さは新生児で1.5~2m,成人で4~6mあります.この長い腸管がお腹の中にうまくおさまるために,胎児期に腸に「回転」と「固定」という現象が起こります.具体的には、胎児の間に小腸と大腸は一度お腹の外に飛び出した後お腹の中に戻ってきますが、この戻る過程で十二指腸はいちばん背中側(深いところ)を体の右から左に走るようになり,逆に大腸はお腹の浅いところで左から右に大きな円を描くように回転します.そして,その間の小腸は左上から右下(斜め方向)に走る形におさまり,長い小腸があたかもカーテンレールに固定され安定した形をとります(図1).
腸回転異常症は,この正常な「回転」と「固定」という過程で異常が起こる病気です.腸管の回転と固定が障害されると,いろんないびつな形で腸管が固定されます。このうち回転が途中で止まってしまい、図のように根元が収束する一方小腸と大腸が扇を広げたように形となるものが最も多いタイプです(図2).このタイプでは,突然扇の要の部分で腸が捻じれやすい形となり、実際に捻じれた状態を中腸軸捻転症と言います(図3).軸捻転を起こしたまま時間が経つと小腸と大腸の血行が悪くなり、壊死(死んでしまう)してしまうことがあります。また腸管が不十分な回転の結果、十二指腸を圧迫しやすい膜(Ladd 靭帯といいます)が作られ十二指腸の部分で通りが悪くなることがあります.腸回転異常で症状が見られるの頻度は6,000人に1人です。
症状
腸回転異常症では、中腸軸捻転や十二指腸の圧迫が起こると症状がでます。このうち中腸軸捻転による症状は生後1か月以内に出ることが多い(約80%)と言われています.従って赤ちゃんが急にミルクが飲めなくなったり,何度も激しく吐いたりする場合は注意が必要です。症状は急激に進むことが多く、お腹が張ってきたり,さらに捻じれた部分で腸管の血行が悪くなると血便が出ることもあります.一方捻転が軽度の場合や捻じれたり戻ったりする場合は、症状は強く捻じれた場合に比べて軽度あるいは間欠的(起こったり治ったり)となることもあります。
診断
症状から腸回転異常症が疑われる場合は、腹部超音波検査や消化管透視を行い診断します。超音波検査では腸の根元が捻じれている様子や、腸に向かう血管の走行異常などで診断します。消化管透視では十二指腸での通過障害や腸の走行異常などを確かめます。このほか腹部造影CTが用いられることもあります。
治療
腸回転異常症は薬で治すことはできません。またたとえ症状がなくても中腸軸捻転症の危険がありますので、診断されれば手術を行うのが一般的です.中腸軸捻転が疑われた場合は緊急手術が必要となります。一方中腸軸捻転を合併していなければ緊急性は少なく、厳重に経過観察の上で待機的に手術を行うこともあります.標準的な術式では、まず腸管が捻転していれば解除し,次いで十二指腸を圧迫しているLadd 靭帯があれば切離します.そして中腸軸捻転症が起こらないように、扇の要の部分をできるだけ開きます.最後に十二指腸を含む小腸が右側方に,結腸が左側方に来るように並べます.腸管の捻転を解除した際に腸管の血流の戻りが悪いときは,まず捻転の解除のみでいったん手術を終え,半日~1日後にもう一度お腹を開けて腸管の色が改善していないかを確認することがあります(second look operationといいます).これは腸管の大量切除を防ぐため、一部でも腸管の色が良くなった部分は残し色の悪い部分のみを切除するための工夫です。
予後
中腸軸捻転症をおこしていても腸をたくさん切除せずに済んだ場合、その後の成長・発達に大きな影響が出ないことがほとんどです。しかし腸をたくさん切除せざるを得なかった場合、腸からの栄養吸収が不十分となるため(短腸症候群といいます)手術の後長期にわたって栄養のための点滴が必要となる場合があります。
図1 正常腸管(小腸はカーテンレイルのような長い範囲に固定されている。)
図2 腸回転異常症(扇の要の様に腸管が収束した場所に固定されている。)
図3 中腸軸捻転